“この人、一体何を言っちゃってんだろう”



それが真っ先に頭に浮かんだ言葉だった。


全く理解不能。


不幸の星の下に生まれた高校生の私には縁の遠い話だ。


結婚、なんて……



「私…まだ高校生だよ?」

「今すぐにしようって言ってるわけじゃない。籍を入れるのは高校卒業したらでいい」

「あ!わかった!いつもみたいにからかってるんでしょう?じゃないと、私みたいな子供相手にそんなこと言わないよねぇ」



騙されないからねっ、と空笑いをして見せる。


だけど、私を見つめる皐月の瞳が余りにも真摯過ぎて、私は口を噤んだ。



「冗談でも思い付きでもない。お前を此処に連れてきた時からずっと考えてた」



皐月は本気だ。
本気で家族になろうって言ってる。


私から目を1秒たりとも逸らさず。
逃がさない。そう言われてるようだ。


頭が回らなくて言葉が出てこない。
私はただ、皐月の揺らぎない瞳を唖然と見つめ返した。



「バーカ。そんな硬くなるなよ」



暫し見つめ合ったままでいると、皐月はふっと笑った。



「返事はまた今度でいい。ま、ノーなんて言わせねぇけど」

「もし、言ったら…どうする?」



自信満々の皐月。


私がイエスって言う確率の方が今は低いのに、何処からそんな自信が来るんだろ……



皐月は私の問いに、ニヤリと口の端を上げるとわざと唇を舐めた。



「言い終える前にその口塞ぐ」



そう言うと、艶かしく潤う唇が再び弧を描いた。


ゾクゾクッと甘い痺れが身体を這う。


私…この唇とキスしたんだよね……


カサつきもなく、綺麗なピンク色をしていて。
厚くも薄くもないそれは想像よりも柔らかかったな……


っっ!なんて、何思い出しちゃってんの私‼︎



無意識に視線が皐月の口元にいってしまってるのに気付いて。カァッと頬が一気に熱を帯びた。