ケータイ小説 野いちご

王道恋愛はじめませんか?

2人のはじまり




嘉人くんとの交際をスタートさせてから、もう1ヶ月が経った頃。

もちろん、未来には「付き合っている人がいる」と言って、嘉人くんの名は伏せながら、合コンの誘いを断った。

私の突然の告白に最初は戸惑っていたものの、最終的にはすごく喜んでくれていたことを思い出す。


あれからもう、一ヶ月。

時間が経つのは早いもので、気付けば9月に入り、あと数日もすれば嘉人くんは全国アリーナツアーでより一層忙しくなる。

その前に一日だけオフができたという嘉人くんと会う約束をしたのはつい一週間前のことだった。


交際が始まったからと言って、嘉人くんと会える時間が増えたわけではなかった。

でも、以前より確実に増えたメールと電話の数に、不思議と淋しさは感じなかった。

それも、忙しいのに私のことを気遣ってくれる彼の優しさのおかげだ。


~♪

休日の昼下がり、待ち合わせの10分前で彼を待っていると、ポケットから鳴り響いたスマホの着信音。

スマホを取り出せば、彼からのメールが受信されていて、すぐさまメールボックスを開いた。

内容は、もうすぐ着くとのこと。

すぐ近くにいるのかと周りを見渡していると、遠くから目出し帽を深くかぶった男性がこちらに向かってくるのが見えた。


「――っ!」


彼に近づこうとして歩を進めた瞬間、突風が吹き抜け、髪が乱れる。

その瞬間、嘉人くんが被っていた帽子がずれてしまい、端正な顔が覗く。


『――えっ、杉原 嘉人さんじゃない?』


彼の近くにいた誰かが、彼に気付いた時、見る見るうちに彼の周りに人が集まっていく。

握手してくれ、サインしてくれ、写真撮ってくれ、そんな言葉が飛び交うのを外から見て、私はスマホを取り出した。

『近くの喫茶店で待ってる』

それだけをメールで伝えると、私はその場からゆっくりと背を向けた。



< 157/ 190 >