まさか、桂二さんの元妻が
マンションで待ち伏せてるとは思わなかった……

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終業式が終わり、そのまま
桂二さん家に行く予定で
マンションの近くで一葉ちゃんと
待ち合わせをして帰ることになっていた。

クリスマスパーティーをしようと
前々から三人で決めていた。

『一葉ちゃん、お待たせ』

何時も行くコンビニに
一葉ちゃんは先に来ていた。

「大丈夫です。
私も来たばかりだから」

僕はその可愛い嘘に
気付かないフリをした。

スーパーで足りない材料を買い
マンションに行くとそこには
一葉ちゃんの母親でもあり
桂二さんの元妻が居た……

「お母さん……」

さっきまで楽しそうに
話していた一葉ちゃんの
表情が一変して暗い顔になった。

「あんたね、あの人を
たぶらかしたのは‼」

この人は僕達の関係を
知っているらしい。

興信所にでも頼んだのだろう。

大体の検討はつく。

「何でいるのよ‼」

そういえば、一葉ちゃんは
母親が嫌いだと言ってたっけ。

「あの人と別れて」

一葉ちゃんの言葉を無視して
僕に話しかけてくる。

何故今更、そんなことを
言うのだろうか?

離婚前ならいざ知らず
恋人を作って結局離婚した人に
とやかく言われなければ
いけないのだろう……

『嫌です』

桂二さんと一葉ちゃんは
僕の新しい家族だ。

「二人が別れるなんて嫌だよ。
私から家族を奪わないで‼」

前者は僕に後者は母親に。

一葉ちゃんが同じ思いで
居てくれて嬉しい。

「未央さんもお父さんも
私の話しを片手間でもなく、
適当に相槌をうつでもなく
きちんと聞いてくれる」

「お母さんは何時も
芙深の話しばかり聞いて
私の話しをきちんと
聞いてたことないじゃない」

買い物袋をぎゅっと
握る手は震えていた。

母親を嫌いな理由は
そういうことも含まれているのか……

きっと、一緒に住んでいた頃は
胸の内に秘めたまま言えなかったんだ。

争い事が嫌いで優しい
一葉ちゃんは父親の
桂二さんにさえ言えなかった……

母親は黙ったままだ。

「未央さん、行きましょう」

歩き始めるようとした
僕達に再び、母親が口を
開きかけたその時、僕のスマホが鳴った。

「ごめん一葉ちゃん、
代わりに出てくれる?」

荷物を持ってない方の手で
ブレザーのポッケから
スマホを取り出してくれた。

一葉ちゃんはディスプレイを見て、
一瞬驚いた顔をしてから出た。

《一葉!? これ未央のだよな?》

《未央さんのだけど、今出られないの》

会話の内容から相手が
桂二さんだとわかる。

《何で未央は出られない?》

《色々あるの。
帰って来たら全部説明するけど
未央さんは取り込み中なの》

母親をチラッと見て桂二さんに言った。

《もうマンションに着いたか?》

《着いたには着いたけど
まだ部屋に入ってない》

この寒空の下に女の子を
何時までも立たせておくわけには……

《未央に代われ》

《でも……わかった》

一葉ちゃんが僕の耳と肩の間に
スマホを挟んでくれた。

《もしもし、桂二さん
実は今、元奥さんが来てて……》

《何で今更……》

確かに今更だよね。

《僕達を別れさせたいみたいだよ》

さっき言われた言葉を思い出す。

《はぁ~!?》

思うに恋人と上手く
いっていないのだろう。

一葉ちゃんは母親に
近づきたくないのか
僕の後ろに隠れるように
一歩下がって立っている。

《二十分で帰るから
もう少し待っててくれ》

**二十分後**

『未央・一葉』

僕達の前で車を止めて
降りて来た桂二さん。

「お父さん」

一葉ちゃんが荷物を持ったまま
桂二さんに駆け寄った。

『冷えてるじゃないか』

今日は暖かい方だけど
季節は冬。
長時間外にいれば
冷えるに決まっている。

『一葉ちゃんごめんね
冷えてるのに気付かなかった……』

ましてや、僕達は制服のままだ。

「え、未央さんが謝ることじゃないです」

直接の原因は母親だが
冷えてることに
気付かなかったのは僕が
気を付けていなかったからだ。

『一葉ちゃんだけでも
先に部屋へ行かせればよかった』

後悔と自責の念に駆られた。

『未央、自分を責めるな』

桂二さんも一葉ちゃんも優しい。

あっ、そっか、一葉ちゃんが
優しいのは桂二さんに似たんだね。

『二人ともありがとう』

僕も二人の側に行った。

『今更何しに来た』

冷えてしまった一葉ちゃんを
車の中に乗せ、ドアを閉めた。

桂二さんは一葉ちゃんに
背を向けると僕の腰を強く抱いた。

『わぁっ、もう桂二さん‼』

「もう」と言いつつも
ちょっと嬉しかった。

『俺は未央と別れる気はないからな』

僕を睨んだまま口を開こうとしない
元妻に見せつけるようにキスをした。

『け、桂二さん外だよ//////』

キスしてくれたのは嬉しかったけど
路チュウは恥ずかしい……

幸い、マンションの近くには誰もいない。

『俺は未央を愛してる』

キスを恥ずかしがる僕に
笑顔を見せてから元妻に言った。

『僕も愛してる』

桂二さんの方を向いて僕も
笑顔で同じ台詞を言った。

「お父さん、未央さん
早く部屋に帰ろう」

車の窓を開けて
一葉ちゃんが言ったから僕達は
元妻をその場に残して
車に乗って駐車場へ向かった。

次に正面玄関に行くと
彼女はもういなかった。