だから、しょっちゅう女の子と間違われて、声をかけられているみたいなんだ。

 いわゆる、"ナンパ”っていうやつ。

 でも、お兄ちゃんの中身は……。

 横暴、俺様、高飛車、傲慢、自信家、わがまま、超自己中……と、全然可愛くなんかない!

 ほら、今だって、

「ねぇ、お兄ちゃんっ!」

 と、追いついたあたしが呼びかけたのに対して、やっと止まったお兄ちゃんは、ものすごくイヤそうな顔で振り向いた。

「結愛、しつこい。つか、さっきのでわかれよな」

 ……って、わかるはずないでしょ。

 むぅと唇を尖らせる。

 そんなあたしに、お兄ちゃんは「はぁ」と嫌味ったらしくため息をついた。

 くぅ、ムカつく。

 唇のはしをヒクつかせるあたしを、今度は真正面からとらえて、グァッと目を見開いたお兄ちゃんは、あたしの耳をつかんで言った。

「オレ、締め切り前で、超修羅場。だから、寮に戻る暇ねぇ」

――キーン。キーン。キーン。

 耳がお兄ちゃんの声で痛くなったよ。

 そんなに大声で言わなくても聞こえるって。