「オネエサ~ン、一人? 遊ばない?」


 …また来たわ。

 うっさいのよ、ガキどもが。


「なぁに? どこで遊ぶの? カラオケなんか陳腐なところに連れてったら承知しないわよ」


 腰までの長いストレートヘアをかき上げて。

 くるり。

 優美に振り向いてやれば。


「う…わっ! あ、人、人違いっ、だったみたいっ」

「すみませんっ!」


 本日3回目のナンパ野郎。

 オカシイくらい同じ表情と言葉を残して走り去る後ろ姿。


「ふん。アタシを誘うなんてね、生まれたての子どもが成人を迎えるぐらいの時間早いって~のよ」


 早く言えば20年ってことね。

 アタシとしたことが、回りくどくなってしまったわ。

 ふん。


 慌てふためきながら逃げる若い男の背中をしばらく見送って、はっと我に返る。


「やばいっ」


 今度はアタシが慌てる番。

 振り返って人ごみを掻き分ける。


「ちょっと! どいてちょーだいっ」


 叫ぶアタシ。


 まあ、アタシの場合?

 掻き分けるなんてことしなくても?

 自然に道が開いていくんだけどね。

 こんなセリフ一つでね。


 まあ、便利なんだけどね。

 ちょっと失礼よ?

 歩行者ども。


 鼻息を荒げるアタシの姿にビビル連中が開ける歩道の真ん中を突っ切って、

 ようやく捕らえた麗しの後姿。


「はあ…危ない危ない。見失うところだったわ」