和君の退院が、明日に決まった。
私は嬉しくって、病院へ向かいながらスキップをしてしまいたくなる。
今日は他の四人は用事があってお見舞いにはいけないらしく、私一人。
「和君…!」
病室の扉を開くと、和君が笑顔で迎えてくれた。
…幸せ。
唐突に、そんなことを思う。
「今日ね、りんご買ってきたよ」
「ほんと?ありがとう」
看護師さんに借りたフルーツ用のナイフで、りんごをカットする。
うさぎの形にしたそれを和君に渡すと、和君は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「…うさぎって…」
「だって和君、昔はうさぎの形にしてくれーって、言ってたもん」
「お前っ…なんでそんなこと憶えてんの…」
和君の顔がさらに赤くなって、私はふふっと笑った。
「憶えてるよ。和君の好きなものは全部」
言ってから、思う。い、今の台詞、ストーカーみたいじゃないっ…?
「俺も。雪には関してはぜーんぶ憶えてるよ」
「ぜ、全部…?」
「そ。恥ずかしい思い出も、全部憶えてる」
は、恥ずかしい思い出!?
いたずらっ子のように微笑む和君に、今度は私が顔を赤くした。
他愛もない会話に、とてつもないほどの幸せを感じる。
ああ、ほんとうに、私は和君の隣にいてもいいんだと思うと、泣きそうなほどだった。