そして、時は来る。
「いや!行かないで!!」
その日は、ピアノのレッスンが終わって、お母さんは夜ご飯の買い出しに行ったので、居残り練習をしてから一人家へ帰ってきた。
和君が、和君ママの服を掴んでそう叫んでいたのが見えた。
…和君?
「和哉…ごめんなさい」
「お願いだから!!母さん!!行かないで!!」
顔を真っ青にして、和君ママにしがみつく和君。
けれど、和君ママはそんな和君を振り払い、マンションの廊下の向こうへと消えていった。
その先に、よく知る人物が見える。
「…お父さん?」
あれは、紛れもなくお父さんの姿だった。
わたしは何があったのかわからなくて、とりあえず和君のもとへと駆け寄る。