another story ~ 好きには勝てない ~



いつもの寄り道を、いつものカフェで涼太としていた。
就業時間後のここはなかなかの混み具合で、よく席取り合戦が繰り広げられている。
そんな私も、ササッと素早い動きでテーブルに鞄を置き、無事にひとつ席を確保した。

「相変わらずの素早い動きに感服だよ」

呆れた顔をしている涼太だけれど、今日もちゃんと座って珈琲を飲めるのだから感謝してもらいたい。

席を確保できて得意げな顔のまま席に着くと、二人分の珈琲を買いに涼太がカウンターへ向かう。
その背中を見送り珈琲がやってくるまでの間、さてさてあの二人はどうなるのやら。ニシシッ、なんて一人怪しい笑いを洩らしていた。

私が思うに、二人は絶対あの二人のはずなのよ。
逢いたいって思っていた相手は、絶対彼のはずなんだ。
きっと今度から買うマーブルチョコは、笑顔で手にするはず。
しかも、隣にはしっかりと――――。

むふふふと妄想を繰り広げていたら、早々に涼太が戻ってきた。

「顔、ゆるんでっけど」

トレーに珈琲を二つ乗せた涼太はテーブルにそれを置き、私の顔を指摘してから席に着く。
私は、ふふーんっとさっき席取りした時よりも更に得意げな顔を、何も知らない涼太へ向けた。

今に見ていなさい。
いつも冷静そうに装っているそのシラッとした顔を、驚きの表情に変えてやるんだから。

ふふんっというように笑みを浮かべて涼太を見る。

「私は今日。ちょっといいことをしたのだよ」

ワトソン君、的なふりで私は人差し指を立てる。

「なんだよいい事って」

私が、立てた人差し指をしまって替わりに顎を突き出すと、それほど興味も無いというように涼太が珈琲を口にした。

そんな顔していられるのも、今のうちなんだからね。
この話を聞いたら絶対に驚くはずなんだから。

そう確信しいる私は、涼太を見て再び口を開いた。