自室で一人ワインを飲んでいると、書斎で物音がすると同時に人間の気配を感じた。純血のヴァンパイアですらそう簡単に侵入できないところに、ただの人間が入れる筈がないと思いながら書斎を覗くと、そこには紛れもない人間の女が倒れていた。

こいつ、どうやって入ったんだ?

倒れている女はピクリとも動かない。

女に近づき肩を掴むと、黒く長い髪の毛の隙間から女の顔が露わになった。女の顔を見た瞬間息を呑んだ。

そんな馬鹿な……ローズは50年前に死んだ筈だ……。

久しぶりに動揺した。だが、我に返って自嘲した。

しっかりしろ。 この女は人間だ。 ローズなわけがない。

暫く目を覚ましそうにない女を抱きかかえ、ベッドへ運んだ。

ベッドで眠る女の顔を暫くの間傍で見つめていた。ローズではないと分かりながらも、その顔から目を離す事が出来なかった。

あどけなく可愛らしい寝顔にそっと触れた。


「少し、幼いか……。」


ローズは純血のヴァンパイアで、髪の毛も瞳も見事な黄金色だった。それも透き通るように美しく、艶やかで見事な黄金色。

忘れようと努力しても、ローズの事は忘れられなかった。それでもここ最近はローズの事で感傷に浸る事などなかったのに、今またあの時の痛みを思い出していた。

この胸の苦しみ、久しく忘れていた。 お前は俺を戒める為に現れたのか?

自分の考えが急にばかばかしく思え、ベッドから離れソファーに腰かけた。

ソファーに座りながらも、やはり女から目を離す事は出来なかった。