「そっちのアクリル絵の具取ってくれるー?」

「ここのリボン、後ろにつけちゃおうか」

「ちょっとこの板くっつけるから、手伝ってくれー」


廊下を歩けばあちこちから聞こえてくる、そんな声。

帝桜祭を間近に控え、放課後の校内は至る所で準備にいそしむ生徒たちの姿が見える。

私はと言うと、今日は食材の取り扱いについて説明を受ける為に生徒会室にほど近い会議室に向かっていた。



「あ、伽耶!いらっしゃい」

会議室の前に着くと、夏希ちゃんが中から顔を出してきた。


「お疲れ様。最近忙しそうで大変だね」

「行事前はどうしてもね。伽耶こそ、部に顔出す回数増やしちゃってごめんね」


生徒会の仕事で忙しい夏希ちゃんに代わって、私が園芸部の仕事を手伝う回数が増えた。

園芸部に、帝桜祭の仕事と確かに忙しい毎日だけど、習い事も間島さんが上手く調整してくれたから問題はない。


「いいの。私がやりたくてやってるから」

「ホントありがとう!また落ち着いたら、お礼させてよね」


「次こそ絶対だよ」と念押し姿を見てクスクス笑うと、夏希ちゃんからも笑みが返ってくる。

以前私が夏希ちゃんの代わりにやった仕事のお礼を断ってから、このやり取りはずっと続いていた。


「じゃあ、名札置いてある所に座って。もうすぐ始まるから」


夏希ちゃんにそう言われて、少し緊張気味に会議室に足を踏み入れた。

だってそこには、会長である要さんがいるのだから。