「何よ……」


立ち去る彼の背中を見ながら、小さくそう呟いた。

ギュッと手に力を込めると、ガシャという音が聞こえてくる。

手元に目をやった私は、何とも言えない虚しさに襲われた。



夏希ちゃんに教えてもらったレシピを見て作ったクッキーの包み。

もちろんそれは、他の誰でもない彼の為に作ったものだった。



パタパタと急いで部屋に戻った私は、ドアをバタンと閉める。

しんと静まり返った部屋を見ると、余計に虚無感が増した気がした。

ベットの端に座り込むと、手に持っていたクッキーを横に放り投げた。



……私は、何を期待してたんだろう。


このクッキーを渡せば、彼の笑顔が見れるとでも思ってたんだろうか。

彼があの時見せた笑顔は、クッキーがおいしかったからじゃない。

彼女がいたから、笑っていたことなんて分かってたはずなのに。


「…バカみたい」


広い部屋に響いた声。

独りぼっちのその空間で、私は膝を抱えて自分の体をギュッと抱きしめた。