「え?鹿嶋(かしま)君なら帰ったよ?」

鹿嶋誠太(せいた)のクラスの扉に持たれて、和穂は眼鏡をクイっと引き上げる。

…ふーん。


口から漏れそうになったため息を静かに飲み込んで、和穂は目の前の自分より小柄な女の子に軽く微笑み返した。

「呼び止めてごめん。ありがとう。」

パタパタと足早に教室から飛び出す生徒の群。

イの一番に来たというのに、相手は更にうわてだったらしい。

長くて美しい髪を教室の窓から入る新鮮な風になびかせながら、和穂は帰って行く生徒達の波を眺めた。

「…ああ。」

廊下を見つめて女子生徒に背を向けていた和穂は、思い出したようにクルリときびすを返して髪を左手で抑えながら桃色の唇に微笑みを宿す。

「一つ、お願いしてもいい?コレを誠太の机の中に入れておいてもらえる?」

「いーよ。」と感じよく笑って女子生徒は和穂からノートを受け取り、教室の中に戻っていった。



…。

今日で4日目…。

和穂は自分の教室に戻りながら、ゆっくりと腕を組んだ。

「…うーん、まぁ、仕方ないよね。」

こうなったら、多少強引に捕まえても誰も怒るまい。


鹿嶋誠太ほかく作戦、実行である。