『山川』

声をかけて来たのは
保健医の花蕾先生だった。

場所は放課後の保健室。

昼休みにメールをもらっていた。

『先生』

実は、花蕾先生ことあい君と
担任の青山先生こと竜君は
同じマンションの両隣。

左隣があい君、右隣が竜君だ。

実は、私はあい君を
好きだったりする。

知っているのは竜君だけ。

『どうしました?』

学校では敬語で話すけど、
マンションに帰れば普通に話す。

『あの人から今日の夕飯
どうする? って
メールが来たんだけど……』

竜君が職員会議で遅くなると
数日前に言っていたのを思い出した。

二人は一人暮らしで私が
引っ越して来るまでは
早く帰れた方が作ってたらしい。

私が来てからは
三人で分担している。

集まる場所は主にあい君ん家。

『私が作ってもいいですけど
青山先生は何時に帰って来るでしょう?』

問題は竜君が何時に
帰って来るかだ……

やっぱり、三人で食べたい。

『それが問題だよな』

時間的に、職員会議は
既に始まっている。

あい君は学校では
俺様だけど、三人でいる時は
年上とか忘れる程甘えただ。

竜君は一番年上なのに
常に敬語だし、こうして
少し抜けてる所がある。

『青山先生って、昔からなんですか?』

高校の先輩後輩だったという二人。

『まぁな』

当時を思い出しているらしく
苦笑しながら話してくれた。

『竜さんは頭がいいのに
何処か抜けてんだよ』

『とりあえず、帰ります』

此処に居てもらちが明かないから
あい君に告げ
保健室を出て帰ることにした。

**************

突然だけど、私のキーホルダーには
四本の鍵が付いている。

一つは自宅の鍵。
もう一つは自転車の鍵。

そして、残りの二本は両隣、
つまり、あい君ん家と竜君ん家の鍵だ。

仲良くなって半年経った時に
二人から渡された時は混乱した……

流石に他人様の家の鍵を
持ってるのは気が引けたが
異口同音に持ってろと言われては
仕方なかった。

学校からマンションに帰って来て、
あい君ん家の鍵を開けて入った。
二時間後、あい君が帰って来た。

『おかえり』

玄関まで行き、顔を見て言う。

『ただいま』

時刻は十九時。

竜君はまだ帰って来ない。

夕飯はある物で適当に作った。

それから更に二時間後、
二十一時に竜君は帰って来て
三人揃ったところで
夕飯が始まった。