酒は飲んでも呑まれるな。友を偲ぶ酒はともすれば、酔いが痺れとなって身体を駆け巡る。赤い炎ではない。静かに揺らめく青い炎こそ、忍びの証。今にも友の仇と声を限りに叫びたいが、あえて壁となるのだ。紅い火を、心頭滅却することにより、蒼い、無色の怒りにすげ替えねばならない。我は壁。壁がひび割れた時、友よ、仇を討とうではないか。その時はもう目の前に___。


「やっぱ地味ー」


「でもこれが基本です。こうやって壁になって、一瞬の勝機を見逃さない」


「布を広げてたら見えにくいし」


「ダメです‼︎30分こうしていて下さい‼︎じゃないと、おやつ無いですからね」


「ええーっ、急にスパルター。塚田クンそんなキャラじゃないじゃん」


「ダメです‼︎」


と、塚田クンは行ってしまった。


それからも言いつけを守り、壁に徹すること30秒。


「ワンっ‼︎」


犬が鳴いている。


しかし壁にならなくては。


「ワンワン‼︎」


ワンコが鳴いている。


しかし壁に__。


「忍法、半蔵は世界一カワイこちゃん‼︎」


と、黒いパグを抱きしめて地面を転がる。


だって、可愛いんだから仕方ないじゃないか‼︎


「変わり身の術を見破るとは半蔵、さすが服部の血を引くものよ」


「ワンワンワン‼︎」


半蔵が答えたのではない。


半蔵はまだ壁に吠えているのだ。