「腹へったよな」
結局、私達は時間を延長して夕方近くまでラブホに居た。お陰で昼ご飯を食べ損ねてしまいお腹がすいてフラフラだ。運転してる一輝の横顔も疲れが滲み出てる。
「ホテルでなんか食べれば良かったね」
「そんな事よく言うな。時間ギリギリまで淫乱ホタルが俺にまとわり付いていたから食う暇なんてなかったろ?」
「なっ、淫乱って何よ?一輝こそ、私を離してくれなかったじゃない」
要するに、お互い様ってヤツだ。
「10年分シたよな」って笑う一輝。でも私は、その言葉を聞いてあの事を思い出した。
「ねぇ、一輝……私の事、どうして嫌いにならなかったの?」
笑ってた一輝の顔が急に真顔になる。
「嫌いになって欲しかったのかよ?」
「うぅん、一輝が10年経っても私の事想ってくれてたのは嬉しかった。でも、不思議だったの。私は一輝を好きだったけど、一輝は父さんに言われてなんとなく結婚したと思ってたから……」
「お前、そんな風に思ってたのか?」
「だって、一輝が私を意識し出したのは一緒に住む様になってからでしょ?結婚するまで手も握った事なかったし。結婚してたのも1年弱。
その間も一輝はバイトや就活でほとんど家に居なかった。夫婦なんて名ばかりの結婚生活だったじゃない」
黙って私の話しを聞いていた一輝が遠い目をして小さく息を吐く。
「だな、俺達はままごと夫婦だったのかもしれないな。でも、俺はホタルが好きだった。誰より大切だったんだ。
それに俺がホタルを好きになったは、一緒に暮らし始めてからじゃない。それよりもっと、ずっと前……」