「どうぞ。汚い所ですが」


「……。」


何だか妙に嬉しそうな恭を前に、どうも足がすくんでしまうあたし。



あたしは今なんと、恭の家の玄関前に立っている。


部屋の中へと促す恭は、動こうとしないあたしを見て、不思議そうに首を傾げている。


「入らないんですか?そんな所にいたら、体冷えますよ?」


「……あっあたしっ……やっぱり自分ちに帰るからっ!」


そう言って、踵を返して来た道を戻ろうとするあたしは、腕を掴まれ引き戻される。


「こらこらこら。何言ってるんですか。
今日は自宅で一人で過ごすのは危険だって言ったでしょう?
そうでなくても、茉弘の家はセキュリティーのセの字もないんだから」


「……悪かったわね。ボロアパートで……」


ジロッと横目で恭を睨むが、


「今日の夜だけでも、大人しく俺んちで過ごして下さい。心配しなくても取って食いやしないですよ」


と言って、ニヤリとした笑みを向けられ、うっ。とたじろいでしまう。