――とある小さな小さな村の外れ。そこには一つ目小僧くんがいました。

 一つ目小僧くんは村の人間と仲良くなりたかったのですが、顔に目がふたつある村のみんなと違い、目がひとつしかないため、怖がられてしまいます。



 どんっ!

 突然、大きな音が聞こえました。


 見上げれば、暗い夜の空に光り輝く大きな花が咲いています。

 その花はすぐに消えてしまいますが、またすぐに新しい花を咲かせていきます。


 夜、村のみんなが集まって楽しく笑い、美味しいものを食べる季節がやってきたのです。

「ぐすん。ボクだってみんなと一緒にお祭りしたいよ。フランクフルト食べたい……ぐすん」


 一つ目小僧くん。足は自然と村の方へ向き、煌々と照っている屋台を草陰からそっと見つめます。



「りんご飴に、わたがし。唐揚げ……いいなあ」


 ……ぐるるる。

 あまりにもお腹が空きすぎた一つ目小僧くん。大きなお腹の音を出してしまいました。


 まあ、たいへん! 人間の子供に気づかれてしまいました。


「うわっ、化け物だっ!!」


 フランクフルトの屋台に集まっている子供たちは大騒ぎです。

(また今年もひとりぼっちなんだ……)


 悲しくなって、元来た道に戻ろうとすると、「来いよ、これ食いたんだろう?」

 後ろから、声をかけられました。

 振り向けば、そこにはフランクフルトを三本も差し出している男の子がいるではありませんか。

「えっ? ボクに?」

 一つ目小僧くんは妖怪で、今まで一度だって人間から優しい言葉を掛けてくれたことがありません。

 ですから、びっくりしてしまいます。


「おい、龍之助(りゅうのすけ)! 化け物に優しくしたら取り殺されちまうぞ?」

「別に、んなことねぇよ。腹が減ってるんだろう? それだけで取り殺されたりしねぇって」

 龍之助くんは一つ目小僧くんに三本のフランクフルトを差し出しました。


 一つ目小僧くんは差しだされたフランクフルトを受け取っても良いのかどうかわからず、困ってしまいます。


「なんだよ、いらないのかよ」

「い、いるっ!!」

 引っ込められそうになったフランクフルトに飛びつき、ひと口、頬張ります。

 あらあら、一つ目小僧くん。あまりの美味しさに夢中になり、お礼を言うのも忘れてひたすらフランクフルトを噛みしめてしまいます。

 けれども龍之助くんは怒ることもなく、自分が作ったフランクフルトを美味しそうに頬張る一つ目小僧くんを見て嬉しそうに笑います。


「うまいか?」

 夢中で食べている一つ目小僧くん。味の感想をきかれて、何度も頷き返します。

「っふ、うええっ、うまい。うえええっ!!」


 こんなに美味しくて優しい食べ物は生まれてはじめてだと思いました。

 ひとつしかない大きな目に、大粒の涙がこぼれます。

 その涙はひとつこぼれると、またひとつと、新たにどんどん作られ、滝のように流れていきます。


「それ、今日初めてオレが作ったんだぜ?」

 嬉しそうに頬をポリポリと掻きながら、龍之助くんは自慢げにそう言いました。


「……泣くか食べるかどっちかにしろよ。騒がしい奴だな」


 龍之助くんがクスクスと笑う声はとても優しくて、よけいに泣いてしまいました。


「うえええええっ」


 優しくしてもらったのは生まれて初めてなので、涙は止まりません。

 それ以来、一つ目小僧くんは泣き虫小僧くんと呼ばれるようになり、村のみんなから優しくされ続けました。



 めでたしめでたし。