「記憶の話、って……」



長机の先では市野先生が頬杖をついてこっちを見ていた。本当に裁判みたいだ。

その目は何かを暴こうとしているような気がしたけれど、残念ながら、暴かれるような事実を私は持っていない。



「まだそんなこと言ってるんですか? いい加減、しつこいですよ」

「ツンはデレがあるからかわいいのであってさすがにかわいくないぞ糸島……」

「は?」

「かわいくない」

「それで結構です」

「今の一瞬傷ついた顔はすごくよかった」

「もう……!」



なんて悠長な裁判だろう、こんな。
何の判決もくだされず言葉で転がされてる。

長机の先の裁判官はにやにやと薄目で笑っている。

体育準備室は空気がこもって暑い。半分物置にされているこの部屋にはカゴに入ったバレーボールや段ボールに入ったゼッケンが置かれていて独特の匂いがする。あと少しほこりっぽい。



「……しつこい、か」



先生は一瞬だけ薄ら笑いをやめて、そうこぼした。
その瞳から、唇から。何かが読み取れそうな気がして、でも、駄目で。

どうしてそんな顔、と尋ねようとしたときには、また笑っていた。



「それなら糸島。逆に、お前はどれくらい覚えてる?」

「……え?」

「言ってみろ。俺とお前に関することで覚えてること。俺が誰かってことはわかってるんだから、まったく何もかも忘れたわけじゃないんだろう?」

「……そんなこと言われても」



急にそんなことを言われても困る。