離れて住んでいた姉が自殺した。

 世話になったんだか、迷惑をかけられたんだか、よくわからない姉だったが。

 何故、彼女が自殺という道を選んだのか、知りたい。

 そう思ったけれど、家庭の事情により、あまり身近に居なかった姉なので、その気持ちを推察することは難しかった。

 だから、少しでも、姉の居た環境を知りたいと、あるツテをたどって、姉の勤めていた大企業に入社した。

 所属も姉と同じ、第二秘書課。

 最初はちょうどよかったと、それを無邪気に喜んでいたのだが。

 入社してすぐのこと。

 未咲は、たまたま、第一秘書課の水沢克己(みずさわ かつみ)と一緒に廊下を歩いていた。

「こんな立派な会社に入れるなんて、夢のようです。
 しかも秘書課だなんて」

 思わず言った未咲に、克己は笑って言う。

「そりゃあ、君、顔がいいから」

「は?」

「秘書も二つに分かれててさ。
 君が配属されるのは、愛人課」

「愛人課!?」

「ああ、ごめんごめん」
と克己は爽やかに笑うが、言うことはロクでもない。

「本当にそうなんじゃなくて、お客様がいらしたときに、お茶を持って出たりとかに必要なただの美人って意味。

 顔だけで、秘書に居られるから、みんなそれを揶揄して、愛人課とか言ってるの」

 そうですか。

 じゃあ、貴方は顔で配属されたわけではないんですね、といじけて言いそうになった。

 名前は完全に日本名だが、克己はハーフだ。

 茶がかった髪も白い肌も、透き通るような瞳も美しい。

 が、毒舌だ。