『お前は夏目と結婚したら、不幸になるんだ』

 目を覚まし、横に居る夏目を見た瞬間、そんな智久の言葉が頭に響いた。

 ……随分と爽やかな目覚めだな、と思ったが、先に起きて自分を見ていたらしい夏目に、

「起きたのか」
と問われた瞬間、その言葉を心の隅に追いやっていた。

 こくりと頷く。

 だが、すぐにまた思い出す。

 夏目とはあまり深い関係にならない方がいい、という智久の台詞。

 それを言ったときの彼の顔を思い出しながら、もう遅いです、と未咲は思った。

 呪いだな、やっぱり。

 今、そんなこと考えたくもないのに。

 小さく欠伸をすると、夏目が自分を見下ろし、笑う。

 最初に日記でこの人の名前を見たとき、こういう朝が来るなんて思ってなかったな、と思った。

「えーと……おはようございます」

 障子から差し込む日差しは眩しく、今、何時だろう、と、枕許の時計を見たが、まだ、五時半だった。

 時計の側には、姉の日記がある。

 結構厚みがあるのは、十年日記だからだ。

 とりあえず、これを買ったときには、十年、死ぬ気はなかったらしい。

 単に、小洒落た柄だから買ったのかもしれないが。

 未咲は、それを眺めながら呟いた。

「おねえちゃんは誰かの愛人で、なにか社内の、或いは、その人の秘密を握ってたんですかね?」