ディスプレイの中にアタシがいる。
 優歌の顔を三D投射してデフォルメした顔。身長の設定も、普段と同じく小柄にした。髪は本物よりずっと長くて、腰まで届くブルー。目も髪と同じ色だ。
 白と水色がベースの衣装は、「歌姫」ミユメのデビュー記念に、ピアズの管理部からいただいた。ブレザーの制服をアレンジしたコスチュームで、変身機能付きだ。普段はただの制服で、バトルのときだけ早変わりする。
「さあ、ログインする時間ですね」
 唇の両端に付けたリップパッチが音声を拾い、表情筋の動きを感知する。そして現実の声と表情をゲームの世界にリンクさせる。優歌が笑うと、ミユメも同時に笑った。

 LOG IN?
 ――YES
 PASSCODE?
 ――****************
 ...OK!
 こんにちは、ミユメ!
 このステージは、誠狼異聞《せいろういぶん》。
 時は幕末、動乱の世。
 歴史の荒波に呑まれた新撰組が、
 あでやかに咲いて散るありさまを、
 どうぞその目に焼き付けて――。
 さあ、お進みください。
 新たなる冒険のステージへ!

 夜だ。
 古い日本の街並みが目の前にある。まっすぐな、狭い路地。両側には、板塀を巡らせた家。
 朝綺先生の招待状からログインした先がこの場所だった。まだ誰もいない。
 蒸し暑い夏の夜だった。不快指数が高すぎる、という警告がポップアップされた。スタミナポイントが、じわじわ削られる。
「イヤなコンディションですね。対大気防御のアイテムはこの間、ホヌアの雪山で使い切っちゃったし」
 ミユメのアバターが、少し変化して。軽く汗をかいたヴィジュアルになる。
 そのとき、音がした。
 ブォォン。
 低く唸るような効果音は、誰かがログインしてくるときの音。アタシは音のほうを振り返った。
 三人同時だった。鈍い金属質の輝きが、足下から頭のほうへ、次第に人の形を実体化させていく。
 華奢な女の人が一人、背の高い男の人が二人。
 女の人は戦士だ。ビキニタイプのメイルだけど、華奢な体付きだから、いやらしくない。腰に剣を差した妖精っていうイメージ。シースルーの魔法衣のマントとスカート。ふわりとなびく髪はオーロラカラー。両目はローズピンクだ。
 男の人の一人は魔法使い。緑色のローブに、サラサラの長い銀髪、切れ長の目は緑色。静かな大人のオーラがセクシーだ。えり元には、葉っぱをかたどったネックレス。そで口からも、いばらのブレスレットがのぞく。植物タイプの魔法使いさんかな。
 もう一人の男の人は、ワイルドな印象の戦士だった。引きしまった裸の上半身には、頑丈そうな胸当て。背中には大剣を二本、交差させて装備している。肌はしっかりと日に焼けて、ボサボサ気味の黒髪は長く、一つに縛ってある。
 アタシにはすぐにわかった。
「朝綺先生!」
 戦士の右の頬には一文字の傷がある。黒い目をきらめかせてニッと笑う表情は、普段の朝綺先生と一緒だった。