籠の中の鳥になるのはまっぴらだった。

 突然現われた男に、父親だと名乗られて、受け入れられるはずがない。
 母親と遊びで生まれたのが俺だと知らされたら、なおさらに。

 どこへいっても現われる、あいつが寄こした監視役にいつも見張られ、逃れる術さえない。
 優等生だった俺は、学校でも暴れるようになった。
 目に映る何もかもが面白くなかった。
 先生を殴ろうが、物を壊そうが、警察が来ようが、金にモノをいわせたあいつに全てもみ消された。

 俺は籠の中の鳥。
 どんなにもがいても、逃げられない。 

「お前には、血を分けた異母兄弟の弟がいる」

 たった一度だけ、無理やり引き合わされた、一つ下の弟といわれた少年。

「はじめまして」
 
 笑顔でかわされる挨拶に凍りつく。

 声が。

 似ている。
 いや、全く同じ声だった。

 となりで母親だと思われる女性と、並んで楽しげに笑っていた。
 半分同じ血が流れているのに、人生はこうも違うのか。
 俺の母さんは、貧しい生活の中で苦しんで死んでいったのに、その苦しみのほんの少しも、お前らには分からない。
 愛された女と遊んだ女、こうも扱いが違うなんだな。
 裕福そうな服を身にまとって、幸せそうに笑うその顔に、唾を吐き捨ててやりたいぐらい憎しみを覚えた。