街灯の、今にも消えてしまいそうな頼りない明かりに、蛾や虫たちが集まっている。
 その下を、酒に酔った男がふらふらと歩いていた。
 その表情は、酔っているのか僅かに赤い。足取りも少し危ういようだ。

「ったく、やってられるかってんだ!」

 悪態をつきながら、夜道を歩いている。
 どうやら仕事がうまくいかず、やけ酒したようだった。

「―――?」

 何か違和感を感じて足を止める。
 どこからか、鼻を突くような腐敗臭。
 目を凝らしてあたりに視線を彷徨わせる。
 もしや……?
 街灯の明かりの届かない闇の中から、べちゃ、べちゃ、と規則正しい音が近づいてくる。
 見えない恐怖に背筋が凍り、やみくもに走り出す。
 その先には―――。

「う、うわ!」

 人であって人でない、腐った体から悪臭を放つ死人(ゾンビ)の姿。
 足がすくみ、腰が砕け、その場に座り込み、恐怖で呼吸は早くなる。
 ずるずると足を引きづりながら、ゆっくりと近づいてくるそれは、顔の半分が白骨化していて、口からは錆びたような茶色の液体を滴らせている。
 腐敗臭がきつくなる。
 大きく見開かれた目が、それから視線を外せないでいた。

「ひっ……!」
 
 迫り繰るそれに、体の震えが止まらず、立ち上がって逃げることもままならない。
 恐怖におののきながらも、手に持っていたカバンを投げた。
 びちゃっ
 水っぽい音と共に、腐った肉片が目の前に飛び散る。
 痛くも痒くもないのか、それとも今更体の一部を失おうとどうでもいいのか、そのまま男を狙って手を伸ばす。

「やめろ、来るなぁ!」

 ぬるっとしたゾンビの手が男の首にかかる。それは体温などまったく感じない、ウジ虫の蠢めく腕。 
 その腕を離そうと反射的に伸ばした手がゾンビの腕を掴んだ。
 ズルッ。
 掴んだ先から溶けたような肉がこぼれ落ち、それを掴んでいた手も滑るように宙へ投げ出される。
 
「ぐ、はぁ……!」

 掴まれた首に力がかかる。苦痛に顔が歪められた。この腕のどこにそのような力があるというのだろう。
 ブツン! という鈍い音と共に苦しげに歪む顔も、一瞬で吹き飛ぶ。
 胴と頭が二つに離された。力を失った胴はそのまま地に倒れ、首はゴロゴロと転がり落ちる。
 そして、後には流れ出す血を旨そうにぴちゃぴちゃと舐めるゾンビの姿。
 血の匂いを嗅ぎつけ、どこからともなく集まってくるゾンビたち。
 彼らの食事が始まる―――。

 世界は日一日と破滅へ近づいていく。
 人々はこのまま絶望の日々を過ごすことしかできないのか―――?

 胴と切り離された首が恨めしげに闇を睨んでいた……。