二人の出会いは、蓮池だった。



扇子を片手に優雅に舞っている少女の名は、りん。
芸子見習いである彼女は舞の腕前を鍛えるべく、毎日この蓮池で練習をしているのだが、今日はいつもと少し違った。
木の影からりんを見つめる少年がいた。

彼の名は、佐吉。
この辺りでは一番の良家の一人息子である。
蓮の絵を描こうとやって来たところでりんを見つけ、その可愛らしさに思わず見とれていたというわけだ。


佐吉が持っていた物を抱え直した、その時だった。
さあっと風が吹き、佐吉の持っていた紙を吹き飛ばした。

「あっ…!」

紙はふわりと舞って、りんの目の前に落ちた。
りんはその紙を拾い上げ、佐吉の方を振り返った。

「貴方のですか?」

佐吉はどぎまぎしながらも、精いっぱい平静を装って頷いた。

「そうですか、池に落ちてしまわなくて良かったです。はい、どうぞ」

りんはふわりと微笑んで、佐吉に紙を手渡した。
それだけで佐吉は天にも上る気分だった。


「あ、あっ…あの!」

気付けば、大声で叫んでいた。

「どうしましたか?」

「あの、君を描いてもいいですか!」

言い終えてからしまったと思ってももう遅い。
佐吉が羞恥心と絶望的な気持ちで俯いていると、くすくすとりんが笑い始めた。
佐吉は驚いて顔をあげた。

「いいですよ」

りんの予想外の言葉に固まる佐吉をよそに、りんはおかしそうに続けた。

「私を描きたいだなんて、変わった方ですね。私よりも綺麗な人はたくさんいるのに」

「君はとても綺麗だ!」

間髪入れない佐吉の言葉に、今度はりんがどぎまぎするばんだった。
こんな真っ直ぐな目で綺麗だと言われるのは初めてだった。 
りんは自分の顔が赤くなるのを感じていた。
佐吉は佐吉で、自分の発言に驚き、顔を真っ赤にしていた。