ケータイ小説 野いちご

【掌編集】数奇屋の話

【企画:T.G.C】作品集
『招来』ホラー

 ジャンル:ホラー
 構成指定:起承転転
 文字数:2000字~5000字

 というお題で書かせていただいた作品です。

◆     ◆     ◆     ◆

 朝の駅構内は通勤通学中の会社員と学生で混雑している。
 電車が到着する予告アナウンスやブレーキ音。携帯電話の着信音や話声も聞こえてくる。普通に過ごしていたら、何のこともない生活音だろう。
 しかし、俺にとってはすべてが耳触りでため息が出てしまう。
 この喧騒から逃れる場所はないものだろうかと視線をめぐらすと、端に設置されたベンチが見えた。腰をおろして息を吐く。
 どうして、こんな体調になってしまったのだろうか。
 自分の身に降りかかった災難に頭を抱えた。
 何故か、この時間になると激しい頭痛に襲われるのだ。徐々に強くなっている症状をどうにかしたいと医者に行ったが原因は不明。もう七日目となっていた。
「おはよう。大丈夫か。また頭痛かよ?」
 顔をあげると親友の晴樹と目が合った。話しかけられただけでも脳味噌をかき回されたような痛みが走るので、首を振って応えるしかなかった。
「ひどいなら学校休めよ。成績いいから勉強おくれることはないだろ」
「それが授業中は治るんだよ。頭痛がするのは朝と休憩時間だけ。家でも痛みだす時がある。だから授業に出るほうが楽なんだよ」
「へえ、それは勉強熱心なことですな」
 冗談のつもりなのだろうが、今の俺には皮肉にしか聞こえない。
 頭痛がまた激しくなってきたと思うと、携帯片手にクラスメイトの美由紀がくるのが見えた。
「おはよう。また頭痛?」
 同じ質問に答えるのは億劫だ。そう思うと、晴樹が首を縦に振って答えてくれた。
「薬も効かないって言ってたよね。じゃあさ、着信メロディで元気づけてあげる」
 小物のほうが重そうな携帯を取り出した美由紀が曲を流す。
 それは最近、人気になっている着信音だった。冒頭は軽快なリズム。そして高音質に切り替わる。
 変わった曲という感じはしないのだが、この曲には友達と仲直りできるとか、幸運になれるとか、都市伝説のような話がある。
 確か妹と母さんもこの曲にしていたな。占い好きな女子高生だけが夢中になるのならわかるが、この人気は異常だ。流行ものが嫌いな俺は反抗して違う曲にしていたりする。
「その曲、俺は嫌いなんだよな。出だしから受けつけないというか……」
 男は設定しないだろうしと思っていたら、晴樹も携帯を取り出した。
「俺もそれにしてるよ。妹に流行おくれとか言われてさ。する気にならなかったんだけど、これ何故か耳に残るんだよな」
 ふたりの会話を横に俺の頭痛は更に激しくなってきた。
 家に帰ろうかな。
 そう思った時、
「変なこと言わないで!」
 女性の声が聞こえたかと思うと、いくつもの悲鳴があがった。
「おい、やばいんじゃないか。あれ……」
 晴樹が震える声で美由紀に言う。
 俺も入っているのだろうが頭痛と格闘中なので、晴樹の視線を追うだけで精一杯だ。
 すると晴樹の視線の先に、隣の私立高校の制服を着た女子が倒れているのが見えた。
 女子高生はかろうじて意識はあるのか、伸ばした手の指先を動かしている。近くにはデコレーションされた携帯が落ちていた。
 そして、倒れた女子高生を見下ろしている女子高生の姿。手には鮮血で濡れた刃物が握られていた。
「持っている刃物を置きなさい!」
 駆けつけてきた駅員が声をかけると同時に、女子高生は脱力したように刃物を落した。不条理な金属音が事の終焉を知らせる。それでも女子高生は唇を歪めて笑っていた。
 その顔が機械仕掛けの人形のように、断続的に動きながら俺に向けられる。
「ねえ、そんなに私の曲を嫌わないでよ……」
 はっきりと聞こえてしまった。何故、目を合わせてしまったのだろう。声だけではない。彼女の蒼白い顔と血走った眼球は俺の脳内に刻みこまれた。
 代わりに激しい頭痛は嘘のように消えていた。


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