ラズラエザ王国は山と海に囲まれた自然豊かな蝶の形をした島国。


その中心部には、決して大きくはないが、おとぎ話に出てくるような幻想的なラズラエザ城が、

山脈と共存する形で健在している。



しかし、そんな落ち着いた外観とは打って変わって、王宮の中はいつにも増して騒然としていた。



「父上!なぜこのような……ましてや姉上がこのような仕打ちを受けなければならないのですか……!」


ラズラエザの第一王子であるユアンを悲嘆させる原因は、先日ヴェルズ王国より出された終戦条約の内容によるものだった。



ひとつは現ラズラエザ国王であるジェラール王が5年以内に退位すること。



もう一つは王太子を友好の証としてヴェルズへ派遣すること。


王太子は第一王女のステラだった。



長期にわたる戦争で戦力が底をつきかけていたラズラエザにとって、その条件をのむ他に選択肢はない。


「友好の証など名ばかりで、姉上を人質とするつもりでしょう……ヴェルズに行けばどんなに虐げられることか……」


「ステラには可哀想だが仕方ないだろう……。これ以上戦争を続けるのは双方にとって無意味に近い。何より、本人が承諾している」


ユアンはもどかしい思いをぶつけるように父親であるジェラール王を見つめていた。


終戦の条件に王太子を犠牲にすることを嘆く者がほとんどだが、

正直なところ、終わりの見えなかった戦いにようやく終止符を打てることにほっとしている者も少なくはない。


ユアンはそれ以上何も言えず、ただ自分の無力さを静かに嘆くことしか出来なかった。