窓際の一番後ろの席に座っている男は外を眺めていた。



別に珍しいものがあるわけでもない、可愛い女の子がいた訳でもない。


それでも授業を聞いているより遥かに気分が良いのである。




外を見ると心を無に出来る。

勉強に追われるのが嫌だから、ただの現実逃避である。




男の名は伊地野零。本作の主人公だ。


茶髪で少し雰囲気が暗い男である。

高校2年生、身長168センチ、顔はそこそこイケメン。

そこらにいる高校生だと思うが、この男性格が暗い故に友達も少なく、人とコミュニケーションを取るのが苦手である。


それだけならマシだ。

伊地野零は極端に頭が悪い。


「何でこの高校にいるの?」って言うほどのウルトラバカである。


バカとはいえ、知識が無いわけではない。

勉強が出来ないだけで、勉強以外の知識は豊富である。



その為、普通に会話しているだけなら馬鹿と言うより、どちらかと言えば頭が良いと思われる。





終礼が終わり、みんなは部活に行ったり、友達と帰ったりするが伊地野零は屋上に直行する。




放課後の屋上が零の至福の時である。


夕陽が落ちて行くのを眺めながら地べたに寝転がる。


今は四月なので風が涼しくて気持ちいい。

時折、寒く感じるときがある。だが、それがいい。


この瞬間こそ零が生きていると実感できる時なのである。



だが今日は風が強く、流石に寒く感じたので零は帰ろうと思い、屋上の階段を開けようとする。



その時だ。


後ろから声が聞こえた。


「あの…。伊地野くん。」

「えっ…?」

零は振り返ってみた。

するとそこには可愛い女の子が立っていた。


長い黒髪で背の低い女の子だ。

零のタイプである。零のストライクゾーンど真ん中である。



しかし、零は女の子をよく見るとこの子、どこかで見たことあると感じた。


「あの…一年のとき同じクラスだった日向飛鳥です。覚えていますか?」


女がそう言うと、零は思い出したかの様な顔をした。


彼女は一年のときに同じクラスにいた娘だ。

一年の時は余り喋らなくて、目立たない娘で正直あまり印象に残っていない。


頭が良いと言うのは聞いたことあるけど。



「あぁ、日向さんか。何か用…?」


素っ気なく言う零に飛鳥は手紙を渡して言う。


「あ、あの…。私と付き合ってください…!」



いきなりの告白。

零は一瞬固まった。

「えっ…?」としか声が出なかった。



「あ、あのっ。今日いきなり結論出さなくても良いです…。明日、放課後にまた屋上に来てください。その時に答えをください…。」


そう言い、飛鳥は去っていく。




零は状況がよく分からず、ずっと固まった状態である。