「よしっ!じゃあ、帰るぞ。
寄り道してから。」
と立ち上がりながら幸治さんが言う。
えっ?寄り道?
もしかして、
と私は、ベッドに寝ながら、疑いの目を幸治さんに向ける。
「まぁ、今は言うのやめとくけど。
ちょっとおじさんたちと話してくる。」
といい、幸治さんは部屋を出て行った。
幸治さんとすれ違うかのように入ってきたのは、翔くん。
「聞いた。」
堂々と盗み聞きをしてたことを言う翔くん。
「ぷっ」
思わず吹いてしまった。
「大変なんだなぁ、医学部って。」
と人事のように話す翔くん。
「俺は、大学っていうと遊びに行く奴らしか知らないからな。
けど、かなは違うんだな。」
と私の寝ているベッドの隣で話す。
「俺もかなの気持ち、わからないでもない。
就職して一ヶ月、無知だし、無力だし。
その上叱られてばっかだ。この先、不安なことだらけだ。」
翔くんも就職して大変だったんだね。
幸治さんの言うとおり、私だけが悩んでるんじゃないんだね。
「翔くんと遊びに行くのも、大学入ってから行けると思ったのに。
ごめんね、なかなか行けなくて。」
「いやっ、いいんだ。
俺はかなが大変な時に、遊びになんて行けない。
かなが一生懸命大学で勉強してんだから、俺は邪魔しないよ。
でもよ、俺、望みがなさそうだな。」
「何が?
何が、望みないの?」
「かな、幸治にぃのこと、好きだろ?」
へっ?なんで、そうなるのかな?
「なんでそんなことを言うの?」
と私が返す。
「さっきの会話を聞いてればそうだろ?
幸治にぃに自分の恥ずかしいところを見られたくないなんて。それに、かなの目を見てれば、幸治にぃに想いを寄せてることくらい分かるよ。」
「んなっ!
そんなことないよ!
だって、私は義理の妹でもあるんだよ!」
そうだよ。私はかつて佐藤家に養女として拾われたの。
「今は違うだろ?親戚がどうのこうのって、養女取り消しだろ?」
「まぁそうだけど。」
「もっと自分の気持ちに素直になれよ!」
と言うと、翔くんは部屋から出てった。
自分の気持ちに素直になれって、どういうことよー。
変なこと、言わないでよ。
私はこの時、胸の底から、ゾクゾクというか、ドキドキというか、、、
何か胸の底から込み上げるものを感じた。