6年生に上がるころには
朔と普通に会話できる
程度にはなっていた。

5月に行った
修学旅行では
同じ班になった。

バスの中では
通路を挟んで
隣の席に座った。

帰りのバスの中で
みんながくたびれて
寝てしまっている中,
朔と陽和は
お互いのことが
気になって,
眠れなかった。

朔は
「なあ,陽和?」
と小声で
話しかけて・・

残っていた
インスタントカメラで
陽和を撮った。

やわらかく微笑む
陽和の表情は
1年生のあの時と
変わらなかった。

朔は,ギリギリまで
この写真を
買ってしまおうかと
思うほどだったけど
さすがにそれは
憚られた・・。

だけど,朔の
心の中には
あの笑顔がずっと
焼き付いている。


修学旅行明けに
貼り出された
陽和の笑顔の写真は,
「こんなのいつ
 誰が撮ったんだ?」
と少し話題になった。

いつも恥ずかしそうに
している陽和の
美しい満面の笑みに
みんなが驚いた。

朔は自分が撮った
なんて言い出せずに
いたけれど・・・

あのときカメラを
朔が持っていたことを
知っていた公ちゃんと
担任の先生は,
朔の気持ちにも
陽和の気持ちにも
気付いてしまった。

それくらい・・・
陽和の笑顔は・・
すべてを物語っていた。

周囲がちらほら気が付き
始めるくらいになっても,
本人たちは,
お互いの気持ちには
全く気が付いていなかった。

それでも,それぞれの
気持ちは・・・
募るばかりだった。

朔が陽和を好きで好きで
たまらないのは
変わらなかったけれど・・・

陽和は,
朔と話をしたり,
朔と周りの人が話したり
しているのを見て,
素敵だなと思う気持ちは
もちろんだけれど・・・
ちょっと「尊敬」に似た
気持ちを持ち始めていた。

朔と話していると
なんだか気持ちが
前向きになる。

それは,陽和が朔を
好きだからということも
きっとあるんだろうけれど・・・
それだけじゃなくて。

周りの人も男女問わず
そう思っているように見えた。

朔は名前とは裏腹に
月ではなく,
太陽のような人だと思った。

そして・・・
自分は名前に負けてるな・・・
とも思った。

「陽和」って
太陽の陽という字を書くのに
自分はまるで「月」だ。

朔という太陽に照らされて
やっとこさ輝ける月。
誰かの力を借りないと
輝くことができない。

朔のように・・・
自分からキラキラと
輝けるようになりたい。

陽和はいつも
朔を見ながらそう思っていた。