「……困ったものね……」


呟く声に目が覚めた。
女性のものと思われる声は、少しずつ大きくなっていく。
その声を聞きながら、ゆっくりと意識が戻り始めた…。

「…自分もまだ本調子じゃないっていうのに付き添って…。見てよ、おかげでこんな所でダウンしてる……」

呆れた感じで話す人に、もう一人の女性が答えた。

「ホント。これじゃあ、どっちが病人か分からないわね?」

「多分、どちらも病人よ」

笑い声がする。
カチャカチャ…と何かを触る音が聞こえ、薄っすらと目が開いた。


「…あらっ…もしかしてお目覚め…?」

頭元から声がした。
視界に入るように場所を移した人が、目の前に手をかざした。

「見えますか?…お名前言えそう…?」

問いかけられ、一生懸命声を出そうとした。


『…ともさか……りりぃ……』

空気だけを発して、声にはならなかった。
乾いてしまった喉に、音が貼りついてるみたいだった。

「意識はあるみたいね…。友坂さん…大丈夫ですか?」

ピンク色の服で、看護師さんだと分かった。
音にならない声で『はい…』と口を動かした。

「先生呼んできますね。待ってて下さい」

看護師さんは、意気揚々と出て行った。
残されたもう一人の看護師さんは、メーター表示の機器を見ながら、あれこれと記録してる。

その様子をぼぅっと眺め、どうしてここにいるんだろう…と考えた。

最後の記憶が混乱してる。
ここに来る前、自分はどこにいたんだっけ……?