ケータイ小説 野いちご

妖の王子さま




「では、その手当を私にさせていただけませんか?」

「え・・・あ、ありがとうございます」




多々良はそう言うと、その場に座り白玖を膝の上に寝かせると着物のあわせの中から白い手ぬぐいを取り出した。
蒼子の右手を取り、傷跡を覆うように手拭いを巻いていく。
ギュッと縛り上げ優しく手を重ねると、多々羅は顔をあげ蒼子を見上げた。




「あ、ありがとうございます」

「いえ。こちらの方こそ。白玖さまをお助けいただきありがとうございます」




そう言うと、再び白玖を抱き上げ、頭を下げ丘の奥へと歩いて行ってしまった。
蒼子はしばらくその背中を見つめていたが、突然の突風に目を伏せ、顔をあげた時には、多々良の姿はもうそこにはなかった。





いったい、なんだったんだろうか。
狐を飼っていて、着物を着ていて。


ここらへんに神社とか、道場とかそんなところはあっただろうか。



浮かぶ疑問に首をかしげるが、その時、頭に水のしずくが落ちる感覚にハッとして慌てて丘を降りた。



丘を降りた頃には、雨をはっきりと体に感じる。



急いで帰らなければ。





< 9/ 381 >