それは、私が六歳の時に起こった出来事だった。

その日の夜、なかなか寝付けなかった私は、大好きなお母様と一緒に、夜の散歩をしていた。

お母様は、妖退治を行っている、蘆屋家の陰陽師だ。

「ねぇ、お母様。私ね、大きくなったら、お母様みたいな陰陽師になりたい!」

「凛(りん)ならなれるよ。だって、ママの自慢の娘だもん」

お母様は、私にとって憧れの存在であり、目標の存在でもあった。

私の夢は、お母様みたいな陰陽師になること。

早く大きくなって、お母様の手助けがしたかった。

ずっとこれからも、お母様の背中を見て育って行くんだと思っていた。

あいつが現れるまでは──

家の近くまで来た時、お母様は歩く足を止めた。

「お母様?」

「凛……、そこの茂みに隠れていて」

「えっ?」

その時のお母様の表情は、どこかを睨みつけているようだった。

お母様に隠れるように言われた私は、近くの茂みの中に座り込む。

「もしかして、妖でもいるのかな?」

私は、顔だけを軽く出し、お母様と周りの様子を伺った。