あのビン底メガネの委員長は、大滝蓮。
 ひょろひょろのもやしみたいにほっそりした体つきは、身長ばっかりやたら高くて、勉強オタクで、邪魔だと思うほど長い前髪はボサボサで、冴えない男。
 それなのにあいつの素顔は、なんと王子さま。
 本名はグレンザー=レン・オーディー。
 あの時代遅れでカッコ悪いメガネを外した奥にあるのは、南国の海を思わせるマリンブルーの、鮮やかな青。
 その綺麗な瞳は見惚れずにはいられない、吸い込まれそうなほどの魔力がある。顔だって、あのひょうきんなメガネを外してしまえばたちまち鼻筋の通った端整な顔が現われる。
 正直、ハッとするほどハンサム。私が今まで見てきたどの人よりもカッコいい。
 それは認める。
 けれど、性格は傲慢で、たぶん……………えっちだ。

 そもそもの話し。
 私が委員長のメガネの下の顔に興味が湧いたのがはじまり。面長のシャープな顎のライン、鼻筋の通った横顔に、もしかしたらビン底メガネの向こうの素顔はハンサムだったりして? というほんの好奇心から。
 それが―――。
 レンがメガネで隠していたのは、その瞳だけではなく、身分、国のこともだった。
 語学や経済の勉学のためにわざわざ日本へ来たらしい。
 あんなビン底メガネをかけていたのは、素性を知られてはいけないと、身を隠すためのカモフラージュ。
 万が一ばれてしまった場合は自国(ブリュアイランド)へ帰らなくてはいけない。
 ひょんなことから全てを知ってしまった私、三森葉菜は素性を隠して学校へ通う彼の、秘密の片棒を担ぐことになってしまった。  

 しかもあろうことか、

「召使いとして使ってやる」

 ときたもんだ。

 「交渉成立」といいながら付けられたキスマークが今も胸のふくらみの少し上に、赤く痣になって付いている。
 夏休み最後の一日で、まさか委員長によってこれからの人生を大きく変えるものになるとは……。