お昼休み。
 昼食を済ませた葉菜は潰れるように、机の上に突っ伏していた。

「最近元気ないね、大丈夫?」

 前の席に座る友達のあきが葉菜とも話せるように、横向きにした椅子に座っている。その膝には最新のファッション雑誌が置かれていた。

「うん……辛うじて大丈夫、かな……」

 力のない声で答える。

 元気のないそもそもの理由は、隣の席に座るビン底メガネをかけた委員長、大滝蓮にある。
 いまは優等生らしく昼休みを有意義に参考書なんかめくって見ているが、一度あのビン底メガネを外すと、ごうまんちきなエロ王子に変貌する。
 王子なんて日本には存在しない。
 彼は身分を隠し異国の地よりやってきた王子なのだ。

 欧州にある小さな国ブリュアイランド国の、王子さま―――。

 髪はつややかな黒髪をしているが、日本人じゃない証拠に瞳が、青い。見惚れてしまうほど、綺麗な南国の海のような鮮やかなマリンブルーの瞳。
 そしてなによりも顔がいいのがむかつくところだ。身長も高いし、スタイルもいい。性格を除けば完璧な男だった。

「三森さん」

 急に委員長が振り向いた。

「!」

 条件反射のようにビクッと体を強張らす。葉菜のその反応になにごとかと、ファッション雑誌から顔を上げたあきが首をひねる。

「できたらでいいのですが、先生から頼まれていた資料の整理を手伝っていただけますか?」

 なにが『できたらでいいのですが』よ!
 人が良さそうな笑みを浮かべ柔らかい声で聞いてくる委員長に、心の中で悪態をつく。私には拒否権がないくせに。全く白々しいんだから!
 なぜなら葉菜は彼の正体を知っている唯一の存在なのだ。レンが王子だということを全校生徒、先生までもが知らない。ひょんことから葉菜だけが知ることになり、その弱みを逆手に取って逆に脅されているのである。

「……わかりました」

 いやいやながらも素直に応じて席を立つ葉菜を、あきが不思議そうに見上げていた。