午前10時。私は今、街中にいる。
目的はもちろん、追跡だ。そして標的は、依頼人の旦那。
FAXで送られてきた浮気をしているらしい旦那の写真だけを頼りに、私はその男を探しているのだった。
そこから? っていうね。もう完全にゼロからの出発ですよ。ほんと、断るってことをアスタさんも知ってほしい。依頼人からの情報提供がまるでなってない。そんな依頼をよく受けたものだ。
アスタさん曰く、すぐに電話を切られてしまったようだけど。
ていうかコレ、一番の被害者は私だよね。勝手に仕事を押し付けられるわ、会議では結局透明人間にされるわで、精神的ダメージが半端ない。
私の存在を認識してくれる人は現れないのだろうか。
贅沢は言いません。一人でいいです。一人いてくれるだけで私はもう嬉しい限りでございますので。
……あ。
いた、そういう人。
――――ゼスト。
なんだかんだ言って、あいつは私の存在に気づく。
会議のときもそうだった。
私がこんな調査をしなければならなくなったのは紛れもなくゼストが原因なわけで。
つまりそれは、ゼストは私があの場にいたということを認識しているということに繋がる。
そしてその後。
私が部屋にいるときは100%誰も私がそこにいることに気がつかないのに、ゼストは気づいた。それだけじゃなく、私に話しかけた。
それってさ、少なくともあいつは私のことが見えているときがあるってことだよね。
……うーん。あのゼストが私を、ねえ……。
ありえない。
あり得るとするならば、謎だ。