ウイスキーの水割を飲みながら、薫はぼんやりと考えていた。


もしあの時、自分が周りの人たちに“私、この人と付き合ってました!!”と暴露していたら、どうなっていたのだろう?

“私の事、騙してたの?”と泣いて彼を責めていたら、どうなっていたのだろう?

彼女のお腹に彼の子供がいた事を考えると、結局どうにもならなかったのかも知れない。

でも、彼の前で泣く事も責める事もできず、本当の事は何も聞かないままで、その恋は終わった。

(せめて、ハッキリと言って欲しかったんだよね…。“他に好きな人がいるから別れよう”って…。)

嫌いになって別れたわけじゃない。

彼の事を好きなままで、結局は裏切られた形で終わった。

彼の口から言い訳のひとつも聞けないままで終わった恋は、薫の心に深い傷跡を残した。

えぐられるような胸の痛みと、裏切られた悲しみだけがいつまでも心に残り、別れてから5年も経った今でも、新しい恋には踏み出せずにいる。