「あ、あぁ・・・行っちゃった・・・・」



「もう、いないのか」


「・・・うん」




茫然と立ち尽くし、涙を流す夢野に

俺も堪えきれず涙を流した。



大切な人を失った喪失感は一度味わえば十分だったのに。







去年の今日。




俺はたった1人の幼馴染みを失った。




俺が甲子園に行ったら、言いたいことがある。

なんて話をしてたとき、目の前で車に轢かれた。



車のスピードが早く、頭を強く打ち、ほぼ即死。

俺は二度と幼馴染みの笑顔を見ることができなくなった。








だけど、今年の夏に入ったある日。


幼馴染みが夢野の前に現れたと言う。




俺には一切見えなかったし、他のやつらもそう。

夢野だけが、唯一見て、話すことが出来た。






俺は自分が死んだことも忘れ、自分は生きてると思っている幼馴染みと夢野越しに話をした。





本当は伝えたかった。



直接顔を見て言いたかった。




甲子園に連れてって、その時言おうと何年も前から決めてたのに。




やっとそれが叶いそうだったのに。



・・・あと、少しだったのに。








幼馴染みはまた俺の前からいなくなった。







「ずっとずっと好きだった。今もこれからも。


甲子園、きっと行くから。

その時はお前の前でちゃんと言う。




・・・好きだよ」






笑った顔が、怒った顔が、泣いた顔が、全部ひっくるめて好きだよ。






夢野越しだろうと、顔が見えなくても、声が聞こえなくたって。






お前がそこにいてくれたって事実だけが


本当に嬉しかったんだ。







1度しかない高2の夏は、俺に夢を見せてくれた。




二度とない、幻のような幸せをーー














『夢越しに君を見た夏』