「ねぇねぇ、坂本ちゃんは彼氏とかいるのー?」
午前の業務が終わり、休憩室でコンビニ弁当を食べていたところ、外回りから帰ってきたニつ上の先輩社員であるマユミさんが、ひょっこりと現れた。これからマユミさんもお昼なのだろう。お邪魔するねーと、隣に広げられたマユミさんのお弁当箱の中身は、とても色鮮やかだ。クルクル黄色い渦を巻いた玉子焼きに、青々としたほうれん草の胡麻和え、綺麗に焼き色が付いた鶏の照り焼き、おまけにウサギの形にカットしてあるリンゴまで…。美味しそうだ。なんて女子力の高いお弁当なのだろう。花マルをあげたい。

「いえ、いません。彼氏、欲しいんですけどねー」
ヘラッと笑って、少し戯けて答えてみた。
残念なことに、私は生まれてこのかた22年間彼氏なんてできたことがない。確かに、髪は寝癖でハネているし(髪を縛って誤魔化している)、スーツにシワは寄っているし(家に帰って脱ぎっぱなしにしている)、化粧崩れはしているし(遅刻ギリギリに家を出るため、駅まで走って汗で化粧が落ちる)こんな女っ気がない女に男が寄り付くとは、到底思えないけれども。

「あらホント!坂本ちゃん可愛いから、彼氏の一人や二人いると思っていた」意外ね、と目をまん丸くし、口に手を当てて、驚いたような素振りをしてくれるマユミさんは、優しいなと思った。

「もしも今週の土曜日暇なら、だけれども…」と、マユミさんは、長く綺麗な指でスマホのディスプレイをスッとスライドさせて、受信メールボックスから一通のメールを開いて見せてくれた。
「合コン、ですか?」