咲き乱れる桜が緩やかにそよぐ昼下がり、春うららかな風が花城をまどろみへと誘う。浮き沈みする意識の中、花城は夢を見ていた。


　――お兄ちゃん。どうして泣いてるの？

　――う、うるさいな、泣いてなんかねぇよ！

　――だって、ほっぺた濡れてるよ。わかった！　あたしが元気になる魔法をかけてあげる。

　チュッ。

　――え……？　う、うわっ！　お前いきなり何すんだよ！　

　――知らないの？　キスって言うんだよ？　こうすると、みんな元気になるってママが言ってたの。お兄ちゃんが泣くたびに、あたしがこうして慰めてあげるね。


「っ!?」

　その瞬間、花城の意識が弾けてまどろみの世界から現実に引き戻された。

　唇にいつの間にか落ちてくっついた桜の花びらを摘むと、夢の光景を思い出して思わず頬を緩めた。

　昔の記憶が夢にまで出てくるその原因はわかっていた。

　忙しい時間を縫って、花城は中休みにいつものように弓を引いていた。しかし、いつものような調子が出ず、ほとんど矢は的を射止めることができなかった。