――翌日。

(眠い……)

 油断すればすぐにでも閉じてしまいそうになる重い瞼をこすりながら、慣れない寝床からのっそりと身体を起こす。

 初出勤早々、遅刻厳禁と気合を入れすぎたためか昨夜は熟睡できなかった。

 昨日、美貴は藤堂に促されるようにして黎明館の従業員寮に送ってもらい、ゆっくり休むように言われた。車の中で藤堂が色々話しかけてきたが、美貴は慣れない旅疲れで会話のほとんどが耳に入ってこなかった。

 寮は黎明館から車で五分ほど行ったところにある場所で、なんとか徒歩でも通えそうな距離だった。部屋は八畳ほどの畳部屋のワンルームで、家具は部屋の端に置いてあるクローゼットと部屋の中央にぽつんとある小さなテーブルのみ、家電は一人暮らし用の小さな冷蔵庫とテレビがあるだけだった。綺麗に掃除されていたが、そんな質素な部屋に唖然としてしまった。。

 寮の部屋は十戸あり、建物は二階建て、その他は個別にアパートを借りて住んでいる。実家の納戸よりも狭い部屋でこれから生活していかなければならないと思うと美貴は先が思いやられた。

(私、ちゃんとやっていけるのかな……)

 昨夜はすでに日が落ちて周囲の様子がわからなかったが、寮の裏手から綺麗な浜辺がちらりと見えた。静かな朝に聞こえてくる目覚まし代わりの潮騒は、美貴にとって唯一の癒しになりそうだった。

 美貴は水道から流れる冷たい水で顔を洗う、テーブルに置かれたコンビニ袋を見てふと思い出した。

(そうだ、昨日コンビニでおにぎりと飲み物買ってあったんだ)

 昨夜は色々あって食べる暇がなかった。いい具合に朝食代わりになり、美貴は時間を見て出勤の準備を始めた――。



(よしっと!)

 藤堂に支給された仲居の制服である着物と帯、襦袢と足袋を着こなして美貴はまだ誰も出勤してきていない黎明館の更衣室で身なりを整えていた。

(こんなところで役に立つなんてね……)

 着付け、華道に茶道は女性の嗜み、と深川の勧めで美貴は学生時代からその技芸を習い事として身につけていたので、難なく仲居の着物を着こなすことができた。


 その時――。