それはある休日に起こった。

満彦が午前中だけ
学校に用があるとかで
桜耶と二人で留守番を
していたら、チャイムが鳴った。

休みの日に来客なんて
初めてだった。

一応、俺も此処の住人だが
家主の満彦がいない今、
勝手に出るわけにはいかず
悩んでいると今度は
ドアを叩きながら怒鳴り出した。

そして、その声を
聞いた途端に桜耶が
怯え出した。

『桜耶? どぉした?』

涙目になりながら
首を横に振るだけで
極力声を
出さないようにしている。

リビングから移動して
仕事中かも知れない
満彦に電話を掛けた。

「柾?」

三コールで満彦は出た。

『仕事中に悪い……実は』

俺は五分前に起きた
事態を簡潔に話した。

「それは、元妻だ。
桜耶は母親にいい
思い出があまりないんだ」

どういうことだ?

実母だよな?

桜耶を見る限り、虐待されてた
わけでもなさそうだし……

電話越しでも俺の考えが
わかったのか、満彦は
訊く前に応えてくれた。

「別に桜耶に対して
直接危害を加えたわけではない」

となると、男を連れ込んでいたか
言葉で桜耶が
傷つくことを言ったかだ。

『そうなのか、
じゃぁ、出なくてもいいんだな?』

桜耶が怯えていたし、
家主の満彦がいないから
端から出る気はないのだが。

「あぁ、ほっといていい」

近所迷惑だが仕方ない。

最優先は桜耶だからな。

『わかった。
早く帰ってこいよ』

それだけ言って
電話を切った。

お昼ギリギリで、
満彦が帰って来た。

「ただいま」

玄関を開けると
満彦は元妻の
襟首を掴んでいた。

『お帰り』

俺の顔を見るなり
喚こうとした
元妻の口を満彦が
手で塞いだ。

「柾、悪いが、
タオルを一枚持って来てくれ」

『わかった』

騒がれると
近所迷惑だし、
何より桜耶が怖がる。

洗面所に行く途中で
子ども部屋を覗いた。

『桜耶?』

返事がない。