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電車の窓から海を眺める。

空には燃えるような深い紅色の夕日が浮かび、海を染めている。

キラキラ輝く海面は穏やかだ。

砂浜には犬の散歩をする人や手を繋いで身を寄せ合いながら歩くカップルの姿が見えた。


普通の日常だ。


普通がどれほど幸せなことなのか、私は知ってる。



もし、お父さんと暮らせば、私も本当の家族と普通の日常を過ごせるのだろうか。

母親はいないけど、それでも実の父親と暮らす方が子供にとっては幸せ。
それが世間一般の考えだと思う。


だけど、もしお父さんを選んだら。
シュウと哲二さん、菜摘さんとの生活を失うことになる。

私に普通の日常の幸せを教えてくれた家族。
血の繋がりはないけれど、強い絆によって結ばれた家族で、大切な大事な人達。


この人達のお陰で私はどん底から救われた。


今こうして立っていられるのは皆のお陰で、反対に血の繋がったお父さんは私に今まで何もしてくれなかった。

確かに、離れたところから私のことを愛してくれていたのかもしれない。大切な存在だと、いつか迎えにいくと固い決意を胸に、見守っていてくれたのかもしれない。

でも、私は見守っていてほしかったんじゃない。

温もりが欲しかったんだ。
直に感じる、感じられる、確かな愛が欲しかった。

それを与えてくれたのは、紛れもなくシュウと哲二さんと菜摘さんだ。

この人達との生活を捨てて、お父さんを選ぶなんて私には出来ない。