自転車で行ける距離だというその旅館に、父について向かう。
数十分ほどで着いたその旅館は、いかにもな――良く言えば味のある、悪く言えば古びた――旅館だった。
「ちょっとこの旅館、大丈夫なのかな」
「大丈夫大丈夫……」
不安になって聞くと、父は心ここにあらずといった様子で答えた。
門をくぐり、飛び石を伝って建物の入口の近くに自転車を停める。私は何かあった時にすぐ逃げられるように、ダイヤル式の鍵を一つずらすだけにしておいた。