『ここではないと思うが?平助あたりじゃないのか?』
さっき、斎藤さんが言った言葉が頭の中でぐるぐると回る。
違う。
斎藤さんは嘘をついてる。
俺は確かに聞こえたんだ。
鈴が昨夜と同じように狂ったように喚く声を。
運良く、隊士は皆稽古に行ったり巡察をしていてあたりは誰もいなかった。
勿論平助も。
藤堂さんは今頃、巡察をしているところだろう。
だから藤堂さんが騒ぐなんて出来ない。
あの時言い返そうとしたが、鈴が目をこすっていたのが見えたからその場を離れた。
「くそっ!」
バサッ
俺は鈴が初めに着ていた着流しを、床に勢いよく投げつけた。
今朝早くから洗ってきてつい先程乾いたから、ほんのり太陽の匂いがした。
「なんでこんなに苛ついてんだ?」
斎藤さんが嘘ついたことか?
それとも鈴が泣いていたからか?
「…よう分からへんわ。」
俺はもともと大坂出身の為つい素が出てしまった。