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彼と初めて一緒に帰ったのは、勤務二週目、私が初の「遅番」に入った日だった。

出勤時に私が遅番だと気付いたらしく、バスに乗る幼児クラスの子たちを迎えに行った時、いつもの感じで彼の方から、一緒に帰ろうと誘ってくれた。


もちろん、嬉しい。

この一週間、二日に一遍くらいは顔を合わせていたけど、交わしたのは挨拶とほんの短い世間話だけ。

彼ときちんと話したことは、まだない。


ウキウキ気分で閉館を待っていたけど、彼はサッカーの用具を片付けた後、コート周りを点検して、フォーマットの出来上がっている簡単な日報を書けば、勤務終了。

対する私は、初めてのレジ閉めに始まり、広い館内のあちこちを点検したり、チェックしたりが多い上、いちいち教わりながらだから、思うように仕事が進まない。


あんまり待たせちゃ悪い気がして、作業中もソワソワしていた。

だけど、途中、廊下で遭遇した彼は、すれ違い様、ニコニコしながら、口パクで可愛く「待ってるね」と言ってくれた。


だから、その仕草で心が和らいだ。

リラックスして、残りの仕事にも集中できた。


確かに、見た目や雰囲気はチャラいかもしれないけど、基本、彼は良い人なんだろう。

明るいし、面白いし、いつも周りを楽しい気分にさせてくれる。

常にテンション高めで、人懐こくて、それでいて、ちゃんと気使いだってできる。


だから、加納さんの言う通り、「理想の彼氏」っていうタイプではないのかも。

彼は誰とでも仲良くできて、誰にでも優しい。

友達としてなら良い関係が築けるのかもしれないけど、自分が彼の「彼女」だとしたら、毎日、気が気じゃないんじゃないかと思う。