【結芽side 】



只今、高梨結芽。

耳をすませば中であります。





「ねぇ、どうして?今ならまだ間に合うわ!教授のお父様にはあたしから頼んであげるから!夢も諦めなくていいのよ?」



甲高い女性の声。



「婚約前提って、そこまで根回ししてまで俺にこだわるのかよ。言っとくけど、まだ続いてると思ってんのお前だけだから」



そして、櫻木先生の低い声。


こ、婚約って!?



遡ることほんの数分。

ベランダで洗濯物を取り入れているとき。

隣から男女の声が聞こえ、あたしはそっと聞き耳を立てていた。



思わず身を乗り出すが隣の部屋の中までは覗くことなんて出来ない。




「何よそれ…別れてるっていいたいの!?ふざけないで!」



棘のある女性の鋭い声が聞こえてくる。



「つーか、付き合ってもねぇし。そっちが勝手に勘違いしたんだろ」



ま、まって…思考が追いつかない!!