「恐る恐る家ん中に入ると……おふくろが床に降ろされるとこだった………愕然として………オレは言葉も出なかった………」

紐の巻かれた首が痛々しそうだった。
真っ白になった手足に頭を伏せて泣き叫ぶお姉さんの後ろ姿が、今でも目から離れない……と、キツネさんは涙をぬぐいながら言いました。

「オヤジに『馬鹿野郎…!』って怒鳴られて殴られた……ボコボコに殴られて蹴られても仕方なかったハズなのに……オヤジはたった一発で止めた………それでオレに『謝れ…』って言ったんだ………おふくろに死を選ばせたのはお前だから………って…………」


全身をブルブル震わせて、あの日のことを語るキツネさんの姿は見てて心が痛かった。
軽い気持ちで家出した自分の行動が、こんな大変なことになるなんて、その頃のキツネさんはきっと思いもしなかったんです。

「謝れ…って言われても………言葉は出てこなかった………なんでだよ……どうしてだよ………って……逆におふくろを責めたい気持ちばかりが先立って………」

キツネさんの目からは、涙の筋が消えることなく続いてました。
私だったら泣いて言葉も出ないくらい辛い話だと思うのに、キツネさんは大きく泣き崩れることもなく語ってる。

……でも、決して自分を許してない。
あの日、『さいなら』と手紙を書いた自分を一番責めてるんだと思いました。