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 パチパチパチ...



 夜の暗闇に灯りをともす薪が静かに音を鳴らす。



 ゆらゆらと揺れる焔の先にはルミアが肩を上下させて、ノアと共に眠りについていた。



 フェルダン王国を出て一週間ちょっと。



 明日には目的地であるアイルドール王国に到着するであろうところまでやって来た。



ひと山越えてる最中の今日は野宿である。



空には満月が浮かび、焚き火など不必要なくらい辺を明るく照らしてくれていた。



ガサガサッと葉が揺れてこすれる音と共に、草かげからリュカが姿をあらわにする。



「...イーリス。交代だ」



「ん。OK、頼むよ」



これまでの道中でルミアがグロルの手下に襲われること九回。その殆どが寝込みを狙ってきていたため、イーリスとリュカが交代でルミアを警護することになっていた。



もちろんルミアには内緒で。



言えば、大丈夫だからと反対するに決まっている。



それでは自分達が二人に付いてきた意味が無い。



 ルミアが寝息を立てて眠ったことを確認するまで、寝たふりをして待つ。



 普段ならそれを確認した後、仮眠をとりながら二人で警護をするのだが今日だけは違う。



 イーリスが立ち上がり向かう先には、夜空を、正確にはそこに浮かぶ大きな満月を見上げるジンノが。



 その横に腰を下ろし、イーリスもそれを見上げた。



「...悪かったな、巻き込んで」



 ぼそりと呟かれたジンノの言葉に、フッと微笑む。



「なんですか今更、えらく殊勝ですね」



「...まあな、笑うなよイーリス」



 月光が照らし出すのは人々の弱い心。



 誰よりも強くあろうとしてもやはりそれの前では隠しきることはできない。



それが例えフェルダン最強の男でも。



ウオオーーン......



美しい月夜の空を裂くようにケモノの声が木霊する。



最初の一声を皮切りに、次々と重なりゆくケモノたちの合唱に静かに耳を傾けるイーリス。そんな彼をジンノは口を挟むことなくただただ見つめていた。








「...王都ではこれといって目立った動きはないです。予定通りセレシェイラ王子とフィンス家の長女との婚約発表が執り行わられた以外はいつも通りの日常が過ぎています」



「......そうか」 



「ただ、気になることが少し。どうやらセレシェイラ殿下の悪い噂が消え、次期国王へとの声が上がっているようなんです」