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ここは《魔法》というものが存在する世界。



多くの国がある中、絶対的な強さを持ちながら至極平和な日々を過ごす王国があった。



それがフェルダン王国。



強さの象徴である炎と、平和の象徴であるサクラを掲げたその王国の王都=ルシャに、彼女──ルミア・プリーストンは住んでいた。






以前、王都を震撼させた殺人鬼に襲われ死にかけたルミア。



そのまま異世界に飛ばされ何とか命を繋ぎ、そしてその十年後、ひょんなことからこの世界に戻ってきたのだ。



無くしていた記憶も取り戻し、ようやく本当の姿、本当の居場所を見つけたルミアは今、王国の軍の中の強力な魔法使いのみを集めた《特殊部隊》に入隊する為、日々訓練に勤しんでいた





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「もう無理ぃ...、俺ヘトヘトで動けないぃーー」



「じゃあ、次俺が相手!!」



「お前は駄目だ」



「なんで!?」



「下心が見え見えだからに決まってんだろーが!!」



「............はあ」







軍の特殊部隊専用に作られたドーム型の闘技場、そこに彼らはいた。



へとへとになり、闘技場のど真ん中で倒れているのは、ネロ。



 ふわふわとしたねこっ毛が、汗に濡れぺったんこになってしまっている。



 魂が抜けたようにぐったりするネロをしり目に、元気よく突進して来た少年。



アポロである。



 可愛らしいニット帽がトレードマークの彼は、ネロの代役をかってでたにもかかわらずジンノから首根っこを捕まえられて止められている。



「兄さん、私は誰でも...」



見かねたルミアがジンノを鎮めようと試みるも



「こいつはだめだ。下心の塊だからな」



「はーなーせーーー!!!ルミ〜〜助けて〜〜」



 ジンノは一向に離す気はなく、アポロも可愛らしく嫌がる素振りを見せつつ思いっきり怖い顔でジンノを睨んでいる。



(うわ......怖ぁ......)



床に寝そべり二人のやりとりを眺めていたネロは、火花が散っているのではなかろうかと思われる程の睨み合いを顔を青くさせながら呆然と見上げる。



その奥で、ルミアが呆れて大きな溜息をつき肩を落としている様子が伺え、心から同情していた。