兄さんの部屋に居候するようになって1ヶ月。

私は、再就職先を探していることもあり、割と規則正しい生活をしている。

いつものように7時頃に目覚めると、ケトルでコーヒー用にお湯を沸かしテレビを見ながらくつろいだ後、朝ごはんの支度をしていたら玄関先から物音がする。

んっ⁇

ドアノブが回り、朝帰りをしたここの住人が現れた。

「おかえり…今日、仕事休みなの?」

「いや…仕事」

「ちょうどご飯の支度しているから食べる?」

「あぁ…悪いが頼む。先にシャワーしてくるからコーヒーも頼むよ」

兄さんは、スーツのジャケットを脱ぎながら私の横を通り過ぎて浴室へ行くとホワッと微かに女物の香水が香る。

外泊をした兄が女性と朝までいたことなんて、居候するようになって初めてのことで、とても驚いた。

もしかしたら彼女が出来たのかと思うと、シャワーを浴び新しいシャツとスーツのスラックスに着替えて出てきた男に質問せずにいられなかった。

「兄さん、もしかして朝まで女の人といたの?」

「……あぁ」

「珍しいんじゃない⁈もしかして彼女?それなら私急いで部屋探すけど…」

「フッ、そんなに慌てる必要はないな…
今回の女は、意外と俺好みにはまったけど彼女じゃない」

「また、遊びなんだ…いい加減いい歳なんだから彼女作って落ち着いたらいいんじゃない⁈」

「……そうだなぁ。本気になれる相手に出会ったら考えるよ」

「兄さんがそんなんだから…ずっと私は男に不信感しか持てなくて、この人ならって思った人に出会ったのに…騙されたのよ……」

騙されたのは自分自身の所為なのに、兄さんにしたら飛んだ言いがかりだと思うだろうが怒りがおさまらない。

どこかで素敵な恋愛をしたいと思うのに
女を欲望の対象としか考えていない男が身近にいると、男なんて不誠実な生き物にしか見えない。

そんな私をなだめるように頭を撫で

「そのうちな…」

なんて言うから…

兄さんが変わってくれたなら、もう一度男を信じられるようになるかもしれないと思うのに、苦笑して誤魔化す男を見ていると余計に腹立たしくなってくる。

私が怒っているからか朝食もそこそこにして身支度を整えると兄さんは逃げるように仕事へ行ってしまった。